死神のお仕事
「…ん?なんだ、まだ居たのか」
仕事から帰って来たサエキさんは、一人パソコンと向き合っていた私の背後に立つとディスプレイを覗き込み、「これはまた随分と仕事熱心な事で」と、驚いたような声で呟いた。まさかやらなくていいと告げたはずの仕事を、私が続けているとは思わなかったのだろう。
…そりゃあ帰って良いって言われてた訳だし、私だって別に仕事はしたくない。仕事がしたくて、残っていた訳では無い。でもここに残る為には仕事をするしか方法が無かったのだ。
「アラタは帰ったのか?」
「はい。点滴が終わって少ししたら帰りました」
「ふうん…で?用件は?」
「え?」
「わざわざアラタ追い払ってまでして俺の事待ってたんだろ?なんか聞きたい事でもあるんじゃねぇの?」
ギクリとして、すかさず振り返った。
図星だ。完全に図星を突かれた。追い払ったとまではいかないにしても…確かに気まずそうにさせてしまったのは事実。僕が留守番するから良いよ、なんて言ってくれるアラタさんの言葉を、でも仕事があるので、の一言で完全にシャットアウトしてしまったのはこの私。仕事なんて別にしなくていいし本当はやりたくもないはずのこの私なのだ。
…でも、振り返った先にはもうサエキさんの後ろ姿しか無くて、代わりに「喉乾いたー」という声が聞こえて来た。きっとこれは、まぁリビングで話そうぜという指示なのだと思う。