小春日和
彼の視線は、妙に私の心をざわつかせたのだ。
「冬?疲れた?」
顔を上げて春を見ると、彼女の瞳は教室で見るものと同じものになっていた。
胸のざわつきが一層酷くなる。
外から聞こえてくる雑音にすら何故か私は苛ついていた。
堪えきれず窓を閉める。
それでも騒音が鳴り止むことはない。
そして、一番騒音だと感じているのは自分の心の中の声だと気づいた。
春を見つめているはずなのに、彼女の隣に彼が立っていて二人に見つめられている…幻覚が見える。
頭を振り、一度目を瞑ればそれは消えてなくなった。
「どうしたの?」
私の肩の辺りに触れようとした春の手を、左手でそっと受け止めて降ろさせる。
手首から指まで手を滑らせて、爪先まで触りきってから離れた。
「帰る」
春の横を通り過ぎる時、僅かに肩が触れ合った。
それを気に留めたのはほんの数秒。
廊下の窓から見える薄暗い空に見惚れながら歩いた。
美しいものを目にした分、自分の心は重くなった。
背後からは静寂だけがついてくる。
足が、踏み出す度に重さを増していくような気がした。
下駄箱から靴を取り出す時、目線を左へ動かした。
勿論そこには何もなく、誰もいない。
タイルに叩きつけられたローファーの音が妙に響いて、空気の冷たさを肌で感じた。
正門まで歩いて振り返ると、二階の図書室の窓に目がいった。
私は自分の胸にまた一つシミを作ってしまった。