小春日和



彼女が登校する時間はなんとなくわかっている。


その時間より今は15分程度早い。


この時間に着くバスしか家の近くから学校付近へ出ているバスがない。


朝練をしている生徒を横目に、校舎の階段をひとつ飛ばしで登りいつものドアの前に立った。


ドアを開けると、全身が紙とインク…それと少しの埃の匂いに包まれる。


図書室には毎朝こうして来ている。


誰も来ない、独特の匂いに包まれる感覚が堪らなく好きなのだ。


私が本を好きになったのも匂いからだったはず。


天井まで着いた大きな本棚の間を通って、私は指定席に腰を下ろした。


そこは窓際。


正門を正面にするこの位置に置かれた長いテーブルの端に尻を乗せて、上半身を窓ガラスに預けながら毎日生徒の姿を目に映している。


前に本に書いてあったが、人間は私のような人とその他で大きな違いを持っているらしい。


孤独を愛する人と、孤独を恐怖と感じる人。


勿論、私は前者だ。


好きでこうなったとは思えないけど、産まれついてこういう人間なのだろう。


だから落ち着けない。


だから何故か苛立ち、感情が乱され、可笑しな夢を見る。


こんなの私らしくない。


あんな世界、私の世界ではない。


頭の先、頭頂部にひと粒の雨水が降ってくるように、頭の中にいくつもの感情が溜め込まれ詰め込まれていく。


グルリと、目眩がした。


落ちていく先が暗く、深く、冷たくとも


そこに戻るべきなのが私な気がした。


それを引き止めたのはどちらなのだろう。


床へ身を投げかけた私の目に映ったのは、彼女と彼の姿だった。


私は荷物を手に持ち、足早に教室へ向かった。


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