小春日和
入学式の内容も、担任と副担任の先生の話も、結局私の頭の中には残っていなかった。
明日の連絡くらい、真面目に聞けばよかったと少し後悔。
冬が隣にいるだけでこんなふうになるなら、これから先はどうなってしまうのだろう。
授業、とか…
真剣に悩むべきことなのに、冬が消えてくれない。
友達が一人できたくらいで浮かれすぎ…
「おい」
頭上から突然声をかけられて、驚いて顔を上げると見慣れた顔が目の前にあった。
「お前、いつまで寝てるつもりだ」
呆れたような顔をして、重たそうなエナメルバックを私の前の机に投げ捨てるように置く。
教室の中には、私達以外誰もいなくなっていた。
冬も、知らないうちにいなくなっていた。
「…寝てない。考え事してただけ。」
興味なさそうに湊は私に背を向けて歩いて行く。
私はもう一度冬の席を見て、そっと机を撫でた。
冬の机の色は、彼女の髪色に似ていた。
「帰るぞ」
「え?ぁ……うん」
湊がよくわからない。
久しぶりに声をかられた。
でも、『帰るぞ』と声をかけておきながら、彼は私を置いて早足で歩いて行く。
廊下を夕日が赤く染めて、3m程先にいる彼のブラウスと頬も赤く染まって見えた。
私は久しぶりに、彼を描きたいと思った。