小春日和
自転車に乗って駅を目指している時も、電車に乗っている時も、湊との距離は一定に保たれていて、それが何故か心地良いと感じる。
彼をこんなに見つめていたのは久しぶりだった。
電車の中で、向かい側に座って窓の外を見ている湊は昔とは違っていた。
家に帰ってからキャンパスに描いた彼を見返して確信した。
私より10センチ程背が高くなっていること。
靴がとても大きいこと。
顔立ちに幼さが残っていないこと。
全部、今日気づいたことだ。
何も変わっていない私とは大違いだと思った。
昔は、こうしてキャンパスに向かってパレットを片手に筆を動かして、なんの色もない世界に色をつけていくのが好きだった。
…ある一件以来、湊を描けなくなってからだ。
私はキャンパスに映っている彼ですら怖くなって、画材を全て部屋の片隅に隠すように置いた。
昔の写真には必ず隣に湊がいて、それが当たり前のようにその頃の私は笑っていた。
わかっている。
湊は私に気を使ってくれている。
だからこそ、余計に彼が遠いのだ。
キャンパスの中の彼の隣に、鉛筆で今の彼を描いた。
描き終わって見比べると、ガラリと雰囲気が変わっていて別人が描いたように思えた。
この頃の私と同じ彼はもう描けない。
明らかに、彼を見る私の心情が違う。
キャンパスをめくり、頭に思い浮かんだものを描いてコピックで簡単に色付けをしてみた。
冬の手だと気づいたと同時に
私は自分が汚れたことを初めて自覚した。
そこには、4年前最後に湊を描いた自分がいた。