小春日和
視線
〜冬side〜




驚いたのは、『春が絵を描く』ということ。


彼女の発言には驚かなかった。


私は不思議なほどあっさりとして、冷静だった。


二言返事で受け入れたのは、なんとなく興味があったからだ。


絵のモデルになるということが、特別に思えて好奇心を掻き立てたから。


ただ、それだけ。


「ありがとうっ」


なのに、春が余りにも嬉しそうに笑うものだから少し戸惑ってしまった。


隣の席という、新学期に最も身近に居る存在というだけで友達になった。


私が言えたことではないけれど、彼女は少し変わっている。


いや、変だ。


そこに惹かれているのも事実だけれど。


美術部に入部すると、春が声を弾ませながら言った。


芸術なんてわからないけれど、一つ気づいた。


美術の話をしている春は、何処か別の世界を見つめている目をする。


その世界はきっと、私が侵入することを許さない。


春の世界は私には見えない。


そう悟った。


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