小春日和
一週間後、部編成を終えて同学年の人達が繋がりを増やしていく中、私は相変わらず春がいなければ一人。
彼女が隣にいないという状況下に置かれたことがないから気にはしないけど。
春はやはり美術部に入部した。
私は部活に興味がないから所属はしなかった。
アルバイトをして金を貯める必要があったのも理由の一つ。
そもそも私は、集団生活や集団行動に向いていない性分なようだし不満は何一つない。
ただ、モデルをするということで美術部には定期的に顔を出す羽目になる。
それが少し嫌だ。
受け入れておいて…となるけど、絵のモデルが嫌なのではなく、全く知らない赤の他人に見つめられるのは気分が悪い。
テンポよく足を運んでいく春の斜め後ろを、私は黙って歩いた。
もうすぐ美術室が見えるという所で、私はふと足を止めた。
「春」
前のめりになって彼女の腕を掴むと、彼女の身体ごとこちらへ傾いてきた。
右半身で受け止めると、彼女の左肩の上に私の頭が乗った。
耳がそっと触れ合った。
「冬?」
私の顔を見ようとした彼女の唇が、私の髪に触れている。
地肌には少し届かない場所で話されるのは擽ったい。
少し頭を振ると痒みが収まった。
「小動物みたい」
戸惑いながらも空気を変えるように春が笑う。
私はそんな春の優しさを無視して、掴む力を強めた。
春の吐息が耳元で揺れている。
大きめの声で話していた人達が、私達の横を通るときは声を小さくして通り過ぎて行った。
「私、春以外には描かれたくない」
「え?」
「そこには入りたくない」
春の髪が頬を撫でる。
私は掴んでいた手と触れていた身体を離した。
返答が返ってくるまで、私は春を、春は美術室を見ていた。
「少し待ってて」
私に微笑みかけて、春は美術室へ駆け込んでいった。
私は廊下の窓から外へなんとなく視線を移した。
と同時に、溜息が漏れた。
校庭は人の声で溢れかえっていて、4階へ続く階段からは吹奏楽部の演奏が聞こえてくる。
右肩を撫でると、ザラリとしたブレザーのなんとも言えない肌触り。
私は真っ白な廊下を見つめて、ただぼんやりと立っていた。