君の声が聞きたい
ただ、気になるの。
風の音、鳥の声、車の音、笑い声…。
沢山の素敵な音が聞こえるこの世界に耳を閉ざし、激しい音楽で掻き消そうとするその理由が。
数年前までは、片耳とはいえ私にも確かに聞こえてた。
今でもその音、声は鮮明に思い出せる。
叶うなら、もう1度聞きたい。
今は霞んでしか聞こえないから。
だから、知りたい。
あの男の子が何を考えて、何を思って耳を塞ぐのか。
ただ、それだけ。
屋上に視線を向ける。
そこには誰もいない。
でも、きっと彼はまた現れる。
あの、立ち入り禁止の屋上に…。
私は鞄を持って立ち上がる。
“優莉ー!帰るよー!”
「はーい!」
教室のドアで待つ皆にニッコリと微笑んだ。