俺様常務の甘い策略
それに比べて今日の私は、昨日と同じちょっとしわになったスーツ。藤堂に立ち向かう力が半減しそうだ。

「家まで送ってく」

車のキーを掲げながら、藤堂がニヤリとする。

「……藤堂まで遅刻させたら申し訳ないし……、ほんとにお金貸してくれれば……」

一刻も早く藤堂から離れたくて、こいつに必死にお願いする。

いつもの私らしくないけど、強気に出れば事態は余計悪化するに違いない。

藤堂はこの状況を楽しんでる。

「変な遠慮しないの。一晩一緒に過ごした仲だよね?」

遠慮なんかしてないのに……。

……こいつ、それ一生言い続けるつもりじゃないでしょうね?

これ以上反論出来ない私の腕を掴み、藤堂はマンションの地下の駐車場に私を連れて行く。

藤堂の車は黒のアウディだった。

ドイツの高級車なんてこいつらしい。

藤堂が助手席のドアを開けると、私は無言で車に乗り込みシートベルトを締める。

高級レザーシートは革の良い匂いがした。

藤堂は運転席に乗り込みシートベルトを締めると、私の方をチラリと見た。

「で、家はどこなの?荷物会社だけど、家の鍵はあるの?」

「鍵は大丈夫。……最寄り駅で降ろしてくれない?車だと遠いのよ」

ついでにお金も貸して。拝んで頼みはしないけど……。
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