俺様常務の甘い策略
今朝、藤堂のあのマンションを見てしまった後なら余計だ。

あいつの家と比べたら、私の家って家畜小屋に見えるかも。

「お風呂ないみたいだけど、どうなってるの?」

険しい表情で部屋の周囲を見渡すと、藤堂は目を細めて私をじっと見つめる。

見渡すと言っても一Kの部屋だから一瞬で終わるのだけど……。

「お風呂はないけど共同のシャワーブースがアパートの隣にあるわよ。何か文句ある?庶民の暮らしなんてこんなもんよ」

開き直って言えば、藤堂は絶句した。

まあ、金持ちのボンボンには信じられないかもしれないけど、みんながみんな藤堂みたいな高級マンションに住めるとは限らないんだから。

こういう世界もあるって知りなさい。

どや顔で藤堂を見据えれば、こいつは何を思ったか突然私の右の頬をつねった。

「うぐっ‼と、とうどう……いたい。なに……すんの!」

「お前って……救いようがない馬鹿」

藤堂は呆れた口調で呟いて、私の頬を掴む指にさらに力を入れる。
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