俺様常務の甘い策略
腕時計にたまに目をやりながら、私は学生時代のエピソードを交え、颯介の話をした。

まるで、最初から原稿を用意してあったかのように、私の口から言葉が出てくる。

心の中では「颯介、早く来てって」ずっと願っていた。

颯介の講演内容に触れた時、突然会場がざわめいたかと思うとカツン、カツンと靴音がして……。

この聞き慣れた靴音……まさか‼

「ご紹介に預かりました社長の藤堂です。このままだと私の秘書が講演までしそうな勢いだったので、思わず出てきてしまいました。私の秘書はとても有能なので」

マイクを持った颯介は私の肩に手を置くと、会場に向かってにっこり微笑んだ。

颯介の言葉に会場は沸いた。

私が呆然としたまま壇上を降りると、そこには田中さんに謝っている渡辺もいて……。

私は側にあった椅子に脱力して腰を下ろす。

夢じゃないんだろうか。本当に無事に帰ってきたの?

私は講演をする颯介の顔を幻でも見ているかのようにずっと見ていた。
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