俺様常務の甘い策略
どれくらい時間が経ったのだろう。

気づけば講演は終わっていて、目の前にはいつもの余裕の笑みを浮かべている颯介がいた。

「本当に俺の代わりに講演するつもりだった?」

颯介が目を悪戯っぽく輝かせながら私をからかう。

「じゅ……十五分の遅刻よ!」

私は動揺しながら颯介に向かって声を上げる。

「正確には十八分の遅刻」

颯介がクスッと笑う。

「よ……余計悪いわよ!」

「ごめん。……いっぱい心配かけたね」

真摯な目でそう告げると、颯介はギュッと力一杯私を抱き締めた。

私も颯介の腰に手を回し、こいつの胸に頬を寄せる。

その温かさに……本当に自分のところに帰ってきたんだって実感した。

「俺と渡辺はいま消息不明になっている飛行機には乗らなかったんだ。搭乗前に通信系統に異常があって出発が遅れたから、別の飛行機に変更したんだよ。ハリケーンの影響で空港も混乱してたし、メールも入れておいたんだけど……届いてなかったみたいだね。講演があって急いでたから、乗るはずだった飛行機の事がニュースになっててこんなに大騒ぎしてるなんて気づかなかった。ごめん」
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