俺様常務の甘い策略
意地悪く笑って、田中さんはさっさとパソコンの電源を落とし秘書室を出て行く。

その姿を見届けると、私はハーッと深い溜め息をついた。

……毎日お気楽で良いわね。

「沙羅先輩、私の方は仕事終わったんで、何かお手伝いしましょうか?」

夏海ちゃんがにっこり笑いながら優しく声をかけてくる。

ああ、田中さんに夏海ちゃんの爪の垢煎じて飲ませてやりたい。

「ありがと、夏海ちゃん。私の方ももうちょっとで終わるから大丈夫よ」

私も夏海ちゃんにニコッと微笑み返す。

私が田中さんと口論せずに仕事が出来るのは、彼女のお陰だ。

彼女がいなかったら、秘書室には怒号がたえないだろう。

「そうですか?じゃあ、給湯室の掃除だけして帰りますね」

「助かるわ。私はちょっと常務室見てくるね。戸締まりは私がやるから」

椅子から立ち上がって夏海ちゃんにそう告げると、私は常務室に向かった。
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