俺様常務の甘い策略
「パンプスで脚立上るのは危ないよ」

「げっ、藤堂!」

驚いてあいつの方を急に振り向いた私は、バランスを崩した。

「ぎゃっ!」

「秋月!」

持っていたファイルが床に落ち、自分も落ちる。

床に落ちた時の衝撃を覚悟してギュッと目を閉じるが、何故か痛みはなかった。

あれ?

目を開けてみれば、目の前には藤堂の綺麗な顔があって……。

私は藤堂に抱き抱えられていた。

「秋月、危ないよ。俺が現れなかったら怪我してた」

藤堂が私に向かってにっこり微笑む。

いつもなら「あんたが急に現れるから落ちたのよ!」と、怒って返すところだが、今の状況にびっくりし過ぎていて声が出ない。

私の身体がすっぽり藤堂の腕の中に収まっていて、私の頭はパニックになっていた。

「……秋月、秋月?」

藤堂が何度か呼び掛けるが、私はまだ反応出来ない。
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