妄想ラブレター
ああ、冬の匂いがするな。
冬は寒いからあまり好きじゃない。
夏のエネルギッシュさも無く、春の温かさも無い。秋の繊細さも感じない、ただ寒いだけ……それが冬だ。
「アキー!」
「なんだよ?」
ちらりと振り返り、再び前を向いてこぎ続ける。
「寒いー!」
「じゃあおれと交代する? こいでるとあったかくなるぞ」
そう言って小さな声で笑った。
「くるしゅうない。じいや、頑張って」
「誰がじいやだ」
だって運転手だし。
「ツヤコマフラーはどうしたんだ?」
「今日慌ててたから忘れてきた」
「ばかだなー」
うっさいよ。途中で思い出したけど、今日はすぐ家に帰るしいいっか、て思っちゃったんだよ。
「おれもマフラー持ってないから貸せないしなぁ」
「むしろアキは寒くないの?」
あたしなんて制服の下にはめっちゃあったかい極暖のヒートテック着てるくらいなのに。
「んー、寒いけど……別に寒いのは嫌いじゃないしな」
「なにそれ。なんかMっぽい発言だな」
「なんでそっちに持ってくんだよ」
「だってあたしなんて寒すぎて布団から出るのに毎朝どんだけ苦労してるか……こんなに寒くちゃ起きれないし」
「それは寒さ関係ないだろ」
「むしろ冬眠したい」
「……だろーな。ツヤコの場合は」
呆れた声色だったくせに、突然アキは大きく体を揺らして笑い出した。
とても楽しそうに、声を立てて。