妄想ラブレター
「大丈夫。今度はそんな事ないようにするから。ほら早く行った行った!」
そう言ってアキの背中を押しながら、両足でアスファルトを蹴った。
そしたらあたしの腕を掴んで、そのまま腰に回された。あたしの手がアキの腰をするりと滑ってブレザーの第二ボタン辺りで両手が組み合わさった。
「よし、行くぞ!」
そう言って何気ない様子でこぎ始めたアキ。
刺すように冷たかった風が一気に和らいだ。
あたしはアキの背中に頬を寄せてる。一瞬の出来事に驚いた体は金縛りにあってるみたいにカチカチだ。
ブレザーの上から感じるはずのない温もりを感じながら、あたしの心臓は爆発寸前だった。
ーーああ、困った。
あたしはゆっくりと目を閉じた。
自転車の揺れも、風を切る音も、冬の寒さも、もう何も気にならない。
ただ瞼の裏に浮かび上がったのは、マックのナゲットを頬張りながらキョトンとした表情であたしを見つめる由美子の顔。
由美子は静かにこう言った。
ーー艶子は瀬戸の事好きじゃないの? って。