妄想ラブレター
ぐっ、ぐるしぃ……誰か……。
「おい、カン。混んでるんだから、さっさと行くぞ」
「へいへい」
パッと解放され、冷たい空気が喉に駆け込む。
助かった……そう思った瞬間、あたしは目の端でアキの姿を捉えた。
学校の制服姿しか見たことないのに、今日のアキは私服だ。
赤いチェックのシャツの上にネイビーのブルゾンジャケットを羽織って、黒のパンツ姿……。
さらに、柔らかそうな茶色い髪が今日はいつもより遊ばせてるように思う。
これが、私服姿のアキなんだ。
ーードキン。
いつも見る姿とは違うアキに、あたしの胸は素直に反応する。
血が全身を駆け巡る。
同時にあたしは顔をマフラーにうずめる。けれど目だけはアキを追ってた。
アキは全然こっちを見向きもしないで、ボーリング場へと入ってゆく。
ーーツキ。
心臓の音が変わる。小さな針が胸を刺す。
いつもならあの笑顔であたしに声をかけてくれるはずだ。以前のアキならきっとそうだったと思う。
どうやらアキとの距離はまた、遠いものになってしまったみたいだ……。
やっぱり……来なければ良かったな。