妄想ラブレター



ぐっ、ぐるしぃ……誰か……。




「おい、カン。混んでるんだから、さっさと行くぞ」

「へいへい」



パッと解放され、冷たい空気が喉に駆け込む。


助かった……そう思った瞬間、あたしは目の端でアキの姿を捉えた。


学校の制服姿しか見たことないのに、今日のアキは私服だ。


赤いチェックのシャツの上にネイビーのブルゾンジャケットを羽織って、黒のパンツ姿……。

さらに、柔らかそうな茶色い髪が今日はいつもより遊ばせてるように思う。


これが、私服姿のアキなんだ。


ーードキン。


いつも見る姿とは違うアキに、あたしの胸は素直に反応する。


血が全身を駆け巡る。


同時にあたしは顔をマフラーにうずめる。けれど目だけはアキを追ってた。


アキは全然こっちを見向きもしないで、ボーリング場へと入ってゆく。


ーーツキ。


心臓の音が変わる。小さな針が胸を刺す。


いつもならあの笑顔であたしに声をかけてくれるはずだ。以前のアキならきっとそうだったと思う。


どうやらアキとの距離はまた、遠いものになってしまったみたいだ……。



やっぱり……来なければ良かったな。




< 222 / 287 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop