妄想ラブレター
……そうじゃなくって。
むしろそっちじゃなくって。
再び頬に熱を感じる。
きっとアキからもそれは見て取れたはずだ。
そのせいなのかなんなのか……アキはお日様みたいに微笑んだ。
「だってツヤコ、鼻歌歌ってたから」
いっ……。
……いや、いや。
あたしが言うのもなんだけど、どー考えても、違うでしょ。
あれは……うん。
アキは再び前を向き、自転車をこぎはじめた。
本物の鼻歌なんか歌いながら。
……うん、うん。
とりあえず、今の現状を自分の中で落とし込もうとアキの背中に顔を埋めた。
「なぁ、それって……おねだり?」
ちっ、違うし!
両手が塞がってるんだから、仕方ないでしょ。
「うっさい、調子に乗んな」
「はいはい」
微かに笑った声が聞こえる。
それを誤摩化すみたいに、再びアキは口笛を吹きはじめた。
赤面症のくせに。
それでもやっぱり、あたしよりどこか余裕のある感じがするのがムカつく。
あたしは静かに冬の匂いとアキの香りを感じながら……ゆっくりと胸の奥で疼く音を抑えつつ、心地よい揺れに身を任せた。
うん……。
恋ってやっぱ、たのしいかも。
【end】