妄想ラブレター



「……書いてみると意外とむずいんだって」

「でも一週間もかかって、これなわけ?」



おっと、口がすべった。


ほんと思った事をつい言ってしまうあたしの悪いクセ。あーあー、瀬戸がまた怒ってる。


瞳はギロリと鋭く睨みつけて、彼の泣きぼくろすらあたしを責めるように見てる。



「……だったら、秋月はさぞお手本になるような手紙書いて来てくれるんだろうな?」

「ぐっ……」



しまった。


これは完全に墓穴だ。


ハードルを自分であげてしまってる。



「い、いやぁ~……」

「おれを惚れさせるような、さもすごいラブレター書いてくれるんだろうな」

「いやいやそんな。でもそれよりかは書けるかもしれないけど……」



はっ、まただ。



「ほーぉ」



あたしのばかやろー。


少しつり目の瀬戸はさらに目尻を引き上げて、瞳を怪しく煌めかせる。



「秋月からのラブレター、楽しみだなぁ」

「あっ、いや、ちょっと待って……」



引き止めようにも、瀬戸は有無を言わさず前を向いた。


そしてその後……瀬戸が後ろを振り返る事はなかった。


そのまま授業が始まるチャイムが鳴り、先生が教室に入ってきてこの話はそれで終わった……。




< 32 / 287 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop