妄想ラブレター



「……秋月」



今度は瀬戸があたしを呼ぶ。



「なぁ、秋月って」



せっかく寝れそうだと思ったのに、瀬戸のヤツはしつこく声をかけてくる。



「んー?」

「これ、なんだよ」

「なんだよって、なんだよ?」



相変わらず机に伏せたまま、ぶっきらぼうに返事を返す。



「この手紙の内容に決まってるだろ。意味わかんねぇ」



あーやっぱり。だよねー。



「あさ、かお……?」

「浅茅生の 小野の篠原 しのぶれど あまりてなどか 人の恋しき……でしょ」



伏せてた顔を上げて瀬戸を見やると、彼は予想外にもすぐそばに顔を寄せて手紙を読んでた。


突然起き上がったあたしに驚いて、勢い良く身を引く瀬戸。けれどそれに負けず劣らず、あたしも身を引いた。



「ごめん!」

「ううん! こっちこそ!」



< 71 / 287 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop