めくるめく恋心
ほぼ毎日と言っていいほどバイトに入っている。特に趣味もやりたい事もないから、バイトに没頭できるのは有難い。葉山さんも出勤日数は自由に決めていいと言ってくれている。他を知らない私でさえ、こんなバイトは中々ないだろうなと思う。

これだけ出勤しているのに、玉置さんと会話した時間はトータル数分だと思う。来た時と帰る時の挨拶はするけど、仕事中は分からない事を聞く時以外は基本口を利かない。もっと話をしてみたいなとは思うものの、上手くタイミングを見つけられず、もう完璧タイミングを逃してしまった空気が漂っている。

いつもはカウンターでスマホをいじっているけど、今日はスマホの代わりに教科書とノートを広げている。


「上から二番目の答え間違ってる。」

「え!?」


ビックリして振り向くと、玉置さんが私の手元にあるノートを覗き込んでいた。


「スペル違う。」

「あ! 本当だ!!」


_言われるまで気が付かなかった。 こういうケアレスミスって勿体ないよね。


「ありがとうございます。」

「別に。 もし斎藤さんから電話が掛かってきたら、品物出来てますって言っておいて。」

「はい、分かりました。」


付箋にメモをしていると玉置さんは静かに奥の部屋に戻ってしまった。

この短期間で実感した。玉置さんは本当に不愛想な人なんだと……。でもだからって冷たい訳じゃない。分からない事を聞けば嫌な顔一つせず丁寧に教えてくれる。今みたいに気付いた事を言葉にしてくれる。ただ顔に出すのが苦手なだけなのかな?と思う。


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