フィルムの中の君
「ねぇ、昴」
そう名前を呼ぶ優はさっきまでの怒っていた表情とは一変し、今にも溶けそうなほどの優しい顔をしていた。
勝手に自分が怒っていることはわかっていたが、これ以上は耐えられないと思い昴は意を決して告げる。
「優。あのさ、これから仕事とか必要最低限以外話すのやめようよ」
突拍子もない言葉に自身の耳を疑う優。
「どういうこと?」
「そのままの意味だよ。近すぎるとお互いきちんと演技出来ないし…。私たち遊びじゃなくてプロとして役者やってるんだからさ、その辺は弁えるべきだと思うんだよね」
(その言葉…本気で言ってる?)
黙って聞いていたが、淡々と語る昴の顔を見ることが辛かった。
「…わかった。昴がそこまで言うなら今後俺も気をつけるよ」
「うん…ありがとう」
頷いてくれたことへの安堵と、無理にでも反論してくれなかったことへの落胆。
昴は複雑な気持ちでこの場から早く立ち去りたいと立ち上がった。
今泣き出さないように堪えながら一段一段降りていく。
(優、本当にごめんなさい…。
あんなにキツイこと言いたくなかった)
昴はこれ以上近い距離で接していたら必ず好きになってしまうと察して距離を置いた。
お互いそんなことが報じられたらただじゃ済まされないし、大手事務所の優はかなり危うい立場に追いやられる。
何より…前聞いた優と「女の子」の邪魔になってしまうと思ってのことだった。