フィルムの中の君
満席の状態が続いていたため、外には長い時間並んで待つ人が多くいた。
これには有紗も想定以上だったらしく何も策は無いらしい。
「どうしよう…長時間待たされるなんて飽きちゃうよね」と言った芽衣の周りに集まり緊急会議。
その結果…
「お待ちのお客様!只今から櫻井昴のサイン会を始めまーす!!」
声高らかに言い放ったのは有紗。
これには並んでもいない無関係の生徒もちらほらと寄ってきた。
「えっ本当にやるの!?」と何度も聞く昴に、芽衣、有紗、香里の3人は背中を押す。
案の定すぐにノートや何やら持った生徒、一般客がごった返しになった。
「昴ちゃんファンです!」
「いつもテレビ見てます!
これからも頑張ってください!!」
「家族全員ファンなのよぉ。
頑張ってねぇ昴ちゃん」
「俺、超大ファンなんす!!!
サインまじ大事にします!!!」
昴自身一体どれぐらいの人にサインをし、会話を交わしたのか覚えてはいない。
寧ろ受付よりこれで疲れたような気さえする。
「さすが、ファンが多いですね」
今までとは違う声がし、左にある柱の方を向くと爽やかな青年が立っていた。
周囲はすでに騒ぎ始めている。
「ゆ…宮藤くん!!」
ここが学校で、更に今一般客までいることを瞬時に思い出した昴は声のトーンを慌てて落とした。
「こんにちは櫻井さん」
優はまさに「王子さま」という形容詞が似合いそうな笑顔でこっちを向いていた。…制服ではなく着物を着て。