フィルムの中の君
「陰陽師…ねぇ…」
軍人を演じたり、スパイや財閥の跡取りを演じたり、そして今は陰陽師だったり、大変だ…お疲れ様です、と心で労う昴。
「ここの受付も大変そうだねぇ」
両腕を組み袖の中に手を入れる。
なかなかこの姿も様になっていた。
そんなひっきりなしに来る客の対応で受付4人は顔に疲れが見える。
これで水分補給してね、と優が袖から腕を抜くと片手に2本ずつ、つまり両手合わせて4本のペットボトルが現れた。
えっ!?なんで!?と騒めく周囲。
「すごい!マジックだ!!」
と喜ぶ演劇部部長の田中香里。
他2人…芽衣と有紗も「おぉ!!」とサプライズに喜んでいる。
どこから出てきたのかわからない手品に3人はワイワイと盛り上がった。
受け取るなりすぐ飲み物に口をつけ始めている。
「ほら、すば…櫻井さんもどうぞ」
いや、私は…と拒否する前にオレンジジュースが手に握らされていた。
『王子さまスマイル』で微笑まれると何を考えているのか、昴にはわかりにくい。
「ありがとう…。ねぇ、優…」
昴が顔を上げたとき、すでに狩衣を着た陰陽師の姿は無かった。