フィルムの中の君



女の子たちを騒がせるだけ騒がしたあげく、知らぬ間に姿を消した優の代わりに昴が並んでいる客たちの騒ぎを鎮めた。



午前の部が終わり文化祭はお昼休憩になると、メイド姿の衣装のままの芽衣が駆け寄ってくる。


「芽衣、どうしたの?」


はい!と、チョコレートの箱を渡して肩をポンと叩いた。


「劇、頑張ってね!
昴のマリアなら大丈夫!!」


どこで実は少し緊張していることがバレたのか、と考えるが心当たりは無い。
目の前の満面の笑みの芽衣はいたずらっ子のような目をしていた。


「今の昴、どこでわかったんだろ…って顔でしょ?ふふふ」


「……うん」


「あのね、昴って緊張するとね…」


芽衣はしゃがみこみ昴に顔を近づける。
なんだろう、と息を止めた。
しばらくそのまま芽衣はにやにやした後、ふいに立ち上がった。


「やーっぱ教えなーい!
私だけが知ってる昴の秘密だもん」


「え…教えてよ!気になる」


「それはイヤ」と笑ったあと芽衣は教室から出て行った。
残された昴は渡されたチョコレートの箱を見つめる。


「チョコ…か。ありがとう」


廊下からは他クラスの生徒や一般客の声で賑わっていた。
囁いたその声は誰に聞こえるわけでもなく空中へと消える。


(この前の陸もそうだし、今日芽衣もくれたし…何でみんなチョコくれるんだろ)


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