フィルムの中の君
どんなに有名な音楽家だって、どんなに強いと言われるスポーツ選手だって、
演奏や試合の前にはナーバスになるだろう。
自分で気付かなくても、或いは気付かないフリをしていても。
昴はフーっと深く息を吐いた。
文化祭の目玉になる演劇部の公演。そのステージの裏に昴はいた。
大きな拍手も歓声も、他の役者たちの演技でさえまるで遠くから聞こえるよう。
ふと手を見ると指先が僅かに振るえているのに気付く。何となく冷や汗も流れてきたようにも思えた。
何度も練習しても、どんなにリハーサルが上手くいっても、本番前になると不安が押し寄せてくる。
「昴」
ポン、と肩に乗せられた手。
どこから出るのか不思議なほど優しい声は昴の名前を呼んだ。
優…と彼の名前を口にしようとしても、思い通りに声が出ない。
(何で…私ここまで緊張してるの…)
すでにサウンドオブミュージックの舞台は始まっていて、舞台上で演技をしている役者たちが動き回っていた。
どうしよう、と優を見上げる。
言葉が無くてもその不安に押し潰されそうな様子はわかる。