フィルムの中の君
一歩、また一歩と足を運ぶ。
彼女の通ったあとには、こっくりとした深紅の幕が揺れる。
思わず優が声を出したほど舞台袖からは想像以上の観客の姿が見えた。
舞台の後ろにいるのはコーラスの合唱部。ステージ下に作られたオーケストラピットには管弦楽部がいる。
指揮台でタクトを振るのは優の友人、白石海斗。
華やかな管弦楽の音と合唱部の何重にも重なるハーモニーが館内に響く。
フォルテッシモで曲が終わり、指揮者がタクトを下げ舞台袖に視線を移す。
昴は自分が出る合図だ、と舞台の中心に向かって大きく歩き出した。
幾つものライトが舞台の真ん中を照らしている。眩しすぎるほどの光。
その中に昴の姿が浮かび上がると、今までとは比べものにならないほど歓声が沸き起こった。
『青い空に真っ白な雲。この川のせせらぎの音。
何て素敵なところなのかしら!』
その第一声で会場にいた人間全てが彼女に、そこにいるマリアに目を奪われた。
それはまるで本物のマリアが生きているかのようにさえ思える。