フィルムの中の君
客席から見ていた芽衣の目にも、生き生きとした昴の姿が映っていた。
表情から動き、そして何より目が輝いている。
これが彼女の本当の姿なんだと改めて思わされた。
マリアが大きな屋敷を訪ね、家政婦に名乗ると屋敷の中へと案内され、そこで初めて彼女は屋敷の主人と対面する。
部屋に入ってくるやいなや、すぐにその屋敷の主人はマリアを全身ジロリと見る。
演じる優が身に纏う雰囲気がトラップ大佐そのものだった。
優が舞台に姿を表すと大きな黄色い声が悲鳴のように聞こえる。
これには彼の友人も笑うしかなかった。
「あいつ、こんなに人気あったんだな」
と芽衣の隣で笑ったのは蔵之介。
「昴も優くんもすごいね。いつも学校で見るのと全然違う。本当に役者さんなんだね…」
それに蔵之介は黙って頷いた。
いつも自分が見ている姿と違うのはどこか不思議な気がする。
それでも、その部分でさえ彼女なんだとすんなり受け入れられるのは、長い付き合いだからなのかもしれない。
「私、頑張ります!
ここで家庭教師として認めてもらえるようになります!」
必死になるマリアに、トラップ大佐は冷たく言い放つ。
「君が何をしようが私の知ることではない。だが、当家の家庭教師を務めるからにはルールは必ず守ってもらおう」
言い渡された子供たちの、そして自分が教えるもののスケジュールに目が丸くなる。
勉強、運動、さらに勉強。休みは全くない過密さだった。
もちろん遊ぶ時間なんて一切無い。
マリアは敵意剥き出しで反論するも、それにも冷たい目で言い返されるだけ。
「先ほども言ったはずだ。規律と秩序、ルールは絶対。例外は一切認めない」
大佐が部屋から出て行くと、残されたマリアは大きなため息をつく。
なんて家に来ちゃったのかしら…という思いと、これからどうなるのかという不安が入り混じる。
「私…大丈夫かしら」
そのセリフで舞台は暗転した。