フィルムの中の君
出演者のみならず、観客で見ている全員が優のトラップ大佐に圧倒された。
もちろん彼の友人の蔵之介もそのうちの一人。
彼は腕を組んだまま黙って見ていたが、隣の芽衣は面白いほど表情がコロコロと変わっていく。
そしてもう一人の友人である海斗はタクトを右手に持ったまま、目の前の総譜(スコア)と舞台の役者たちを見つめていた。
セリフが終わるやいなや、海斗の指揮で一斉に楽器を構えた管弦楽部が次の曲を演奏し始める。
「こう見てる分には問題無さそうに見えるんだけどねー…」
え?と横から見ると、蔵之介は舞台上の昴と優を見ながら呆れつつ半笑いをしていた。
「昴と優くん?
本当にね、昴も素直じゃないとこあるから。優くんも大変そう」
「彼女がどうだかわかんないけど、あいつ結構思ってること口に出さないからなぁ。言わなくても伝わるって思ってんのかはわからないけど」
お互いに自分の友人の欠点を報告しあったあと、この件で悪いのはやっぱりお前だよ…と自らの友人に心の中で告げる。
「指揮振ってるの、さっき一緒に来た久石くんだよね?」
芽衣は今更ながらに気付いたのか、先ほど二人で教室まで訪ねてきた相方(蔵之介)に聞く。
あぁ見えても一応部長なんだ、と蔵之介は言った。
「全然そんなことないよ、久石くん部長なの似合うと思う!ただ…まさか指揮者だとは思わなかったけど」
それには大きく頷いて、
「俺も指揮が振れるとは思ってなかった。とか言って音楽はさっぱりだけどね」
私も!と笑う。
2人が楽しそうに話してる間も、昴と優は舞台上で、海斗はオーケストラピットで自分の仕事を続行していた。