フィルムの中の君
2人が舞台裏に戻ると同時に会場中が大きな拍手に包まれた。
楽器に負けないほどの大きな音が鳴り響く。
マリアの最後のセリフは他のキャストやスタッフの生徒たちの心にも響いていたらしく、数人の目が潤んでいた。
終わった途端にとんでもない熱気の中にいたんだと気付かされる。
役にのめり込んで気付かなかったが額には汗が浮かんでいた。
ふぅっ…と昴の安堵の溜息と同時に、
「お疲れ様」
後ろから耳に馴染む声が聞こえた。
「お疲れ様でした」
彼女には振り返らずとも優が立っていることはわかった。
最高だったよ、と微笑み自然と優は隣に座った。少しだけ前髪が汗で額に張り付いているのがわかる。
(私がマリアとして生きることが出来たのは…)
「きっと隣にいたのが櫻井昴だったからかな」
え?と聞き返すと彼はこう続けた。
「舞台の上でトラップ大佐が生きられた理由」だと。
「私も同じ。幕が上がる前に生きろよって言ってくれたから。だからマリアとしてあの光に歩いて行けたの」