フィルムの中の君
scene 4
「そろそろ手が…」
弱々しい声に気付きパッと手を離すと、彼女は腕を摩っていた。
見ると手首のあたりが赤くなっている。
「悪い、本当にごめん昴!こんなに痕になって…すごい痛かったよな」
彼女の浮かべた苦笑いが何よりも肯定の意味だった。
ごめん、と何度も言葉を重ねる。
「急ぎの用?でもちょっとあれは強く引っ張りすぎだよ」と笑う。
しかし摩っている腕は一向に赤みが引く様子はない。
「あざとかにならないよな…」
ぼそりと呟いた一言が妙にその場で響いて聞こえた。
彼女は笑っているが万が一あざとして残ってしまった場合、少なからず仕事に影響が出る。
「ね、残ったらどうしよっか?」
そんな笑いながら言われる冗談も今の優には通じない。
「まだ映画撮ってる最中だもんね…。でも私の役って基本的に長袖しか衣装無いし、見えないよ。そんな心配しなくても大丈夫」
確かにそれはそうだけど…
その一言は喉で引っかかって口からは出なかった。
「ねぇ、だから大丈夫だよ」
「大丈夫じゃない!!」
ハッと気付くと想像以上の大きさの声を出していた。昴はびっくりし、本人もそれ以上に驚いていた。
さっきまでの狼狽えようはどこにいったのかと不思議になるほど。
「…昴のこと傷付けちゃった、って本気で不安になった」
だからそれは…と昴が口を開く前に優の言葉が続いた。
「俺にとって昴はすごい大事な人なんだ。いきなり言われても何の話だってなるかもしれないけど」
「私もだよ」
そう言いながら優しく笑いかけた。
「私もそうなの。きっと1人だったらここまで来れなかった。優がいてくれたから私はここまで役者としてやってこれたんだよ」
そうじゃなくて…!!
再び出そうになる大声をどうにか抑えて優は目を瞑った。
(もしここで…こんなところで言って関係が悪化したらどうする?それこそただじゃ済まされない。下手したらこれから先ずっと仕事がやりにくくなるかもしれない)
奥歯を噛みしめる音が今にも聞こえてきそうだった。
同時に握った拳の力が一層増す。
(お前、本当にそれでいいのか?)