フィルムの中の君
それから数秒間沈黙が流れた。
いつもと違う様子を見て、昴もあえて言葉を返さずに待っている。
「あの…さっきからごめん。ちゃんと言わなきゃいけないことなのに、上手く伝えられなくて。本当にごめん…」
ゆっくり目を開けると変わらない笑顔があった。
待ってるからゆっくり話して、とでも言っているかのよう。
「さっき言ったように俺にとって昴はすごい大事な人なんだ。
でもそれは君が女優だからどうこうって意味じゃなくて。
何か…うーん、何て言えばいいのかな…その…俺にとって大切な女の子なんだよ」
目を丸くしてポカンとしてる昴に慌てて言葉を繋げる。
優は覚悟を決めたように息を吸った。
「ごめん…もう一回やり直しさせて。
俺、昴のこと好きです」
その言葉を発している間が驚くほど長いものに感じられた。体感としては数分ぐらい経ったのではないかと思えるほど。
恐る恐る顔を見るとまだびっくりしたような表情を浮かべていた。
「え…何…?ドッキリ…?」
それと同時に周りをキョロキョロと見始める。昴はカメラが隠されていそうな場所に目を向けた。
「何このドッキリ!やめてよ〜。
全然冗談にならないんだけど」
「え、ちょっと待って、違う!」
止めようと彼女の腕を掴む。
さっき強く握ってしまい赤くなってしまった場所…。
昴はそのまま顔をこっちに向けようとはしなかった。
「…手、離して優。本当に痕残っちゃうんだけど」
僅かに語尾が震えた。
「昴、聞いて。カメラ探してたみたいだけどドッキリでも冗談でも何でもないよ。俺がこういうの下手だから伝わり辛かったかもしれないけど、本心だよ」
「でもテレビの仕掛けってこういうのあったりするよね」
(まぁ確かにあるっちゃあるけどさ…)
やっぱり彼女の声が震えていると思った優はゆっくりと腕を引いた。
「お願い、こっち見て」
再び彼は腕を引いてみる。
返事は無く、頑なにその場の体勢を変えようとはしなかった。
「…やっぱり距離置いたままにすればよかった」
その一言で思わず力が入り、そのまま腕を引く。
こっち側に顔が向けられて目尻に光るものが見えた。
「昴…」