フィルムの中の君
「優…やめてよもう…」
そのまま言葉を飲み込むかのように昴を抱きしめた。肩のあたりから小さく鼻をすする音が聞こえる。
「冗談じゃない。本気だよ。
ずっと昴のこと好きだったんだ」
気付くと握られていたカーディガンの裾を少しだけ引っ張られる。
「優…私のこと好きでいてくれたの?」
「うん、ずっと好きだった」
そっか…と小さく呟く。
まだ少し鼻をすすっているようだった。
「…私ずっと誰かを好きになるのは良くないって思ってた。あ、水島さんに言われたわけじゃないよ!
でも今の私が1番大事にしなきゃいけないのは仕事だって思ってた。
事務所にもスタッフさんにも、他の役者さんにも迷惑かけるようなことは絶対しちゃいけないって思ってたんだ」
そういうことか…とため息を吐いた。
小さいうちからこの世界にいたら色んな物を見てきただろう。知らない内に自分自身に暗示をかけてしまった、というのも無理は無い。
(きっと今まで我慢に我慢を重ねて来たんだろうな…)
「だけど、ダメだって思えば思うほど余計に辛くなってた。でもいつも優の顔が浮かぶの。楽しい時も失敗したときも、どんな時でも真っ先に顔が出てくる」
涙を堪えて肩に埋めていた顔を上げる。
泣き腫らしたかのように両眼が赤くなっていた。
「優、どうしたらいいのかな…」
こんなに直球で投げられると思ってなかった優は予想外の展開に苦笑する。
面白いことを思いついたような顔付きで「じゃあ1つだけいい?」と提案した。
「昴、俺と付き合ってください。
答えは"はい"の一択のみで」
少し間が開いてから昴はくつくつと笑い始めた。
「何それ、初めて聞いたんだけど!」
「何それって言われても…」
(拒否権なんて無い、なんて言ったらさすがにかなり痛いやつだし…
ここはもうとりあえず黙っておこう)
そんな一択のみの答えに笑って返事をした。
「これから…よろしくお願いします」