フィルムの中の君
優が昴に気持ちを伝えてから…つまり文化祭から数日が経ったころ、近隣の学校にまで演劇部の評判は届いていた。
既に事務の方には何件もの電話があったという。
壊滅的な状態だったものが観客に見せられるようなものになったのだから、とりあえずは成功と言ったところか…。
「で、俳優さんはどこに?」
教室の後ろの方の席に座り椅子を揺らしながら海斗は発した。
その相手はいつも通り蔵之介。
「あー、あいつは仕事があるとかで午前中で早退していった」
昼過ぎから登校してきた海斗は優の席が空になっていたのを尋ねた。
今回はサボりではなく、部活の事情…いわゆる公欠扱いだった。
お昼休みの時間になり多くの生徒は食堂へと向かったため、教室にはほとんど残っていなかった。
「本当に優って忙しそうだよね。この前までサウンドやってるかと思えば、再びまた仕事仕事って…。出席日数大丈夫なのかな」
「まぁその点はお前と違って大丈夫だろうから安心しろよ」
どういう意味だよ、と横目で見る。
しかし海斗の言う通り優の忙しさは以前と変わらなかった。
「努力もあるだろうけど結構器用だからな。その辺は上手く両立出来てるんじゃないか?」
「そうだよねー。そうじゃなきゃやってられないよね」
でも不器用なところもあるけど…と蔵之介が小さく呟いた。
あぁ、とにんまり笑う海斗。
「女子から人気あるのに、何でか恋愛に関してはとことんダメだよな」
全国のファンが知ったら落胆するだろうか?
いや、もしかすると『そこがまたいい!』っていうことになるかもしれない。
「草食系男子って流行ってるらしいしな…」
何の話?という海斗の当然なツッコミはそのまま流された。
蔵之介が2つ目のおにぎりの包装を開けようとしたとき、カバンの中で薄っすらと光が点滅した。
そのまま手を突っ込み、しばらく間があった後に手を動かす。
「彼女から連絡?」
校則でケータイの持ち込みが禁じられているため、密かにカバンで隠しながら触ることが生徒たちの間で暗黙のルールだった。
全然違う、と冷たく言い放つ。
「お前が会えなくて寂しがってた相手からだよ」
「会えなくてって…優?なんだって?」
「いつも通りノート見せて欲しい連絡。それと海斗…勝手に人のお菓子を食べるな、だってよ」
またやったのか…と呆れるしかない。
「今度は何を食ったんだ」
「パンダのクッキー。チョコがかかってるやつ」
満面の笑みでの返答。
(パンダって…あいつそんなに可愛らしいものを…)