フィルムの中の君



「優!…と藤森さん!?」
慌てて立ち上がり挨拶をすると、藤森は親しげな笑顔を浮かべた。


グレーのスーツに身を包んだ優の更に後ろにジャケットを着た藤森が立っていた。


「おはよう昴ちゃん。何か悩み事?」


気付いたら名前をちゃん付けで呼ばれるようになり、話しかけられるようになっていた。
当初は何があったんだろう…とも思ったが、最近はそんな様子にも慣れてきた。


「何かあったらいつでも僕が…」


「藤森さん」
途中で割って入った優は藤森に優しい声音で笑顔を向ける。


「次、藤森さんのシーンじゃないですか?」


(こいつ必死すぎだよ…)
藤森は笑いを堪えつつ、2人に手を振ってその場を離れて行った。


「2人とも仲良かったの?」


「いや…」
否定しようとしたが、どっちなのか優自身もよくわからなかった。


「あの人よくわかんないんだよな」
足を組みながら手に持っていたペンをくるくると回した。
ちょっと掴めないよね、と頷く。


「何か最近やたら話しかけられる。というか、からかわれている…気がする」


「優と仲良くなりたいんじゃない?」
その一言に「何でだよ…」と怪訝そうな表情を浮かべた。


あからさまな態度にそんなに嫌な顔をしなくても…と思わずにはいられない。


「もうじきこの映画も撮影終わりだね」
何気なしに発した昴の言葉に時間が経つのを感じた。


「そうだね…あと1週間ぐらいか」
台本を見ると何となく寂しさを感じなくもない。


昴と優は全て国内だったが、他のメインキャスト数人は海外ロケがあったと聞いた。


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