フィルムの中の君
「明後日だったよね?昴と千秋さんのシーン」
その一言で昴はギュッと目を閉じた。
練習を重ねても上手く本番で出来るかどうか、自信よりも不安が勝る。
「胃がキリキリしてきたよ…」
そう言ってお腹を押さえる姿を見て笑う優。
「まぁ壁伝いに走れる役者なんてそうそういないけどね!」
学校で木刀を持ち出して、呼び出して2人で説教を受けたことを思い出した。
昴にもあの時なんであんなことが出来たのかわからない。
「でも…ここまで来たらやるしかない」
大丈夫だよ、と優は昴の頭に手を乗せた。
自分より大きくて温かい手の感覚がすぐ昴に伝わる。
2人の間に静かな時間が流れた。
それは気まずさを感じるものではなく、お互いの存在をしっかりと確かめるようだった。
「そろそろ出番だから行くよ」
別れ際、ポンポンと頭を撫でてスタジオに向かった優。
今更になって昴は顔の熱さに気付いた。
今の昴には意識しないなんてことは出来ない。
しかし明後日の撮影を考えると全身がこわばり冷や汗が滲んでくる。
「大丈夫、落ち着け・・・練習したんだから・・・」
ぼそぼそと独り言を呟きながらスタジオに移動していった。