フィルムの中の君
「いつから黒鳥の出演が決まってたんだね?」
そうですねー…
優は悩みながら慎重に言葉を探していた。
「僕が知らされたのはつい最近、
先週です」
知らされた、と言う言葉に野上は眉をひそめた。
「きっとそれより前に話は決まっていたんだと思います。
最初僕も話を聞いたときは驚きました」
再びコーヒーを啜り、着替えの途中だった野上はネクタイを締めた。
「鈴屋さんが主演をあの子にしたときに思ったよ、きっとこの作品は力入ってるんだろうなって。
そして終盤君まで出てくるなんて…
あの人はドラマ以上にすごいものを作る気だろう」
「僕にきちんと話があったわけじゃないので正確なことはわかりませんが、
一度引き受けた仕事は必ず最後までやり遂げますよ」
「例えどんな役だろうとも?」
「はい、僕はアイドルやタレントじゃありません。
宮藤優は役者ですから」
その言葉に野上は笑い控え室から出て行った。暖かくなってきたとは言え、夜風の冷たさが頬に刺さるよう。
野上を見る目は意志が強くどこまでも真っ直ぐで深い目だった。
「優…いい目をするようになったな」