フィルムの中の君
昴と優がスタジオへ戻るとすぐに先ほど止まったシーンから撮影が始まった。
『圭介くん…!なんで…』
苦悶の表情を浮かべる俊彦にふふっと笑いながら近付く圭介。
『なんで…とはよく言ったものですねぇ。ご自分で分かってらっしゃるのではないですか?俊彦さん』
屋敷に響く断末魔。
『あなた普通じゃないわっ!
おかしい…どうかしてるわよ!!』
涙目で叫ぶ美人女医にも容赦なし。
圭介は一歩、また一歩と歩み寄る。
『人間に普通なんてもの、
あるんですか?』
しゅっと首から鮮血が飛び出し医者はその場に倒れた。
狂気に満ちた男の笑みが彼女が最後に見た光景。
カーーーーット!!!!!
これ以外にも細かいカット割りで何度か撮り直しもあったが、ほぼこれで撮影は終わった。
お疲れ様でした!と役者一人一人に花束を渡しクランクアップしていく。
昴と優も拍手を贈りその様子を見ていた。
「あとは2人のシーンか」
ぼそっと呟く真田。
「昴ちゃん、宮藤くん、どれぐらいあれば大丈夫そう?」
鈴屋の投げかけに昴は20分でと返事をする。
「何?鈴屋さん何するつもり?」
野上の質問にしれっと鈴屋は答えた。
「台本覚えるのにどれぐらい必要かって」
でもあの2人は完全に頭に…
そう言いかけた三枝はハッとする。
「もしかして監督、2人のシーン脚本変えたんですか!?」
あぁ、そうだと頷く鈴屋。
「さっき渡した」
さっきがいつをさしているのか俳優陣は即座に理解し、身震いさえ覚える。
鈴屋栄司…やはりただ者ではない。とその場にいた全員が思った。