フィルムの中の君



「お待たせしました」


別室から戻ってきた2人は黄土色の台本を片手に持っていた。
他の役者には理解出来ないほど清々しい顔付きで2人はスタジオに入る。



よくあのページ数を20分でやったもんだ、という鈴屋の独り言が聞こえた周囲の役者は若干引いている。



(あの鈴屋栄司があのページ数なんて言うんだからかなりのセリフ量だ…。)



「さてお二人、用意はいいか?」



昴と優は鈴屋の顔を見て頷く。
最後の掛け声、より一層声に力が入った。


「よーい、アクション!!!!!」







『どう?両親に裏切られた気分は』


穏やかな圭介の声は静かな空間でよく響いた。蘭は俯いたまま動かない。


『親に二度捨てられ裏切られるなんて…
君は本当に哀れだ』


そうかしら。
囁く蘭に聞き返す圭介。


『何?』


『あなたのような人間にならなくてよかったわって。そんなに落ちぶれたら人間として恥だもの…っ』


恐怖で言葉が震える蘭に圭介は静かに歩み寄る。左手に光るのは先ほどから持っているナイフだった。


『そんなに気の強い女性は好きじゃないんだ…五月蝿いから喚かないでくれよ』


左手がゆっくりと蘭の頬をなぞる。
つーっと生温かい液体が流れ出るのがわかった。


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