フィルムの中の君
眼球をくり抜き、爪は一枚ずつ剥がし、元がわからないほど切りつけた。
ふふっ…と小さく笑う圭介。
左手に持ったナイフからは血が滴り落ちている。
『馬鹿な奴らめ…最初から僕の言うことを聞いていればよかったのに…
自分たちが偉いと思い込んでいる可哀想な奴ら。……ふふっ』
月夜に照らされたナイフに付く血を舌で舐めとる圭介。
『…さて、次はどうしようか』
静まり返ったスタジオでようやく動けるようになったのは鈴屋のカットの声がかかってからだった。
どうせなんだから最後まで見届けようとクランクアップした俳優陣たちを始め、スタッフ、マネージャー全員が息をすることさえ忘れていた。
「すごいな…」
思わず出た野上の言葉に鈴屋は言う。
「だろ?俺が選んだ役者2人だ。
石上に脚本変えさせてよかったよ」
でも…と言いかけた三枝は口を噤み、自分の最終回分の台本を捲った。
(かなりのページ数なんてものじゃない。少し変わったなんてものじゃない。脚本まるまる違うじゃないよ…)
「よくあの2人、あの短時間にやりましたね監督」
傍らで見ていた石上が話しかける。
「お前の変更した膨大な量のシナリオ、よくあそこまで持ってったもんだよ」
満足そうに鈴屋と石上は2人の役者を見ていた。