フィルムの中の君
scene 1
「ただいまー」と昴が帰宅すると部屋の奥からトマトの香りがしてきた。
手を洗い制服を着替えキッチンに向かう。
「おかえり昴」
水島は鍋でグツグツと煮ながら味見をし、ハーブを足して再び味見…を繰り返していた。
あのね水島さん!と、冷蔵庫からお茶を取り出しグラスに注ぎながら昴は話し始めた。
「優くん、学校同じになっちゃった」
なっちゃった、という言い方はあくまで故意では無いかのような表現である。
そこには触れず水島は返事をした。
「あ〜…やっぱりね」
「やっぱり…ってどういうこと?
水島さん知ってたの?」
違うわよと否定してから水島が朝見かけた車の話をした。
車種と運転手からしておそらく彼の事務所のものだろう、と。
「優くんはマネージャーさんが運転してるわけじゃないのか」
「基本はマネージャーがやる方が効率いいし人員削減になるんだけどね。まぁ例外も多々あるでしょ。特にあの事務所は」
そんなに噂がある事務所なの?と聞くと大手だから相当お金あるのよと水島に言われる。
「宮藤くんリオンプロモーションよ」
想像以上の大手な事務所の名前に、え?と耳を疑いつつも、納得をした。
(あぁ、だから高校生なのに高級マンションなんかに住めちゃうのね!)