フィルムの中の君
鈴屋の監督作品のオファーを受けてから1週間ほどが経った。
夏終わりにはクランクインの予定なので、昴には5月からアクションの練習が入ってくるだろう。
高校2年の4月下旬、
教室から校庭を見下ろし昴はため息を吐いた。
「どうした?」
テノールの柔らかい声が背後からし、その声の持ち主は昴の隣に立つ。
「…優」
優は早い段階から昴を呼び捨てにしていたが、慣れない昴はここ最近「優」と呼ぶようになった。
外から風が入ってきて、癖の無い真っ直ぐな優の髪を吹く。
「…なんでここにいるの?大体クラス違うでしょ」
「だって放課後だから誰もいないし別にいいじゃん」
あ…そう、と言わんばかりに呆れた目で隣を見る昴。
「優、学校には慣れた?」
「まだ来て1ヶ月も経ってないのに慣れるわけないだろ」と笑う。
「でも…まぁいい奴らが多くて、クラスの奴らは嫌いじゃないかな」
素直に好きって言えばいいのに、と言う昴の額にデコピンをする。
いったいよ優!と涙目になりつつも昴は続けた。
「学校で話すことじゃないんだけどさ…俺、映画決まったんだ」
「鈴屋監督の?」
何で知ってるの!?と驚く優。
「『コードネーム』でしょ?私にも来たの。そのとき優にもオファー行ってることも聞いた」
そっかぁ…と笑う優。
近くにあった机の上に座りはーっとため息を漏らす。
「スパイの役なんて初めてだから楽しみにもしてるけど緊張もしてる。千秋さんや浪川さんと共演出来るなんて、滅多にないよ」
「私も緊張してるよ…」
そんな2人を夕日は優しく照らしていた。