フィルムの中の君



靴を履き替え教室に向かおうとした昴は背中を叩かれ、思いっきり転びそうになった。


「危なっ!…あ、おはよう」



振り向くと犯人は目の前でにこにこと笑う友人 瀬山芽衣だった。
ボブヘアの彼女はふわふわと髪の毛を上下させながら昴に話しかける。



「おはよう昴っ!」



テンションの高い友人にこれは何かあるな、と敢えて触れずにそのまま教室に向かおうとした。



しかし芽衣は昴の手を引っ張り足を引きとめる。



「あのー…芽衣?」



「昴!朝のニュース見たよ!
何で教えてくれなかったのー!?」



朝のニュース?…あ、あれね。
そして尋常じゃないほど握られた手には力が入っていた。
さっきから通り過ぎる生徒たちが昴を見ている。



「主演なんてすごいね!!」



満面の笑みを向けられると昴もどうしていいかわからずに困惑する。
正直なところ何で主演なのか自分自身でもわからなかったからだ。



オーディションをやったわけでもなく、水島に聞いた話によると鈴屋監督直々にご指名だったらしい。



楽しそうな芽衣と一緒に教室に入るとクラス中が一斉に昴に視線を集める。
……え?と発する前にあっという間に昴は囲まれてしまった。



「昴ちゃん!朝テレビ見たよ!」

「すごいねぇ櫻井さん!!」



おどおどする昴を見て芽衣は観衆をかきわけ席へと連れて行ってくれた。
昴は彼女のこういうところが好きだと前に言ったことがあった。



気付けばホームルームが始まる時間になり担任がいた。
あれこれと学校の予定を話す担任そっちのけに芽衣は昴にエールを送る。



「頑張れ昴!応援してるからね!」



素直な友人の言葉にふふっと笑いピースをした。


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