フィルムの中の君

scene 3




ドラマとアクションをこなしているうちに、暖かいから暑いと感じる季節にまでなっていた。



昴はドラマの撮影がクランクアップを迎え多少スケジュールが落ち着く。
優も6月半ばに舞台が千秋楽を迎え忙しさのピークから考えると余裕のあるスケジュールになっていた。




5月から始まったアクションの練習も数をこなす内に身についてきたようで、
コードネームの出演者たちは軽々と動けるようにまでなっていた。



今昴がいるのは水島が運転する車の中。
…もっと言うと助手席である。



分厚い台本を読みながら学校を終え家へと向かっている途中だった。
ぶつぶつと言いながら頭の中に台詞を入れていく昴。
こういうとき、水島は絶対昴に声をかけることなく運転していた。




着ている制服は夏服なのだがそれでも暑さに耐えられないらしく、昴はネクタイを解いて膝の上に置いている。



映画コードネームのクランクインまで半月を切っていた。
当初は8月後半の予定だったがアクションの中田の事情により7月半ばからの予定へ変更。
後々聞いた話によるとどうやらハリウッド作品と撮影時期が被ってしまったらしい。



何度も何度も声に出し、台詞が口に馴染むまで昴は読み続けていた。
難しい言葉や言い回しも多く、他の作品に比べ長台詞も少なくは無い。



それでもクランクインの時期が学校と被っていないことが唯一の救いだった。



「家着いたよー…おい昴!」



水島の声に顔を上げるといつの間にか車は駐車場に停まっていた。
あ、と声を漏らし車から降りる昴。



「1こ貸して!」



台本をしまうと水島が持っていたビニール袋の片方を持った。
入っているのは帰りにスーパーに寄って買ってきた食料。



ありがとうと言う水島を置いて昴は1人先に部屋へと向かった。
家に入るとすぐ冷蔵庫に食料をしまっていく。
後からきた水島も持っていた袋の中身を片していた。


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