フィルムの中の君
朝から2時間だけ授業を受け、迎えに来た水島の車に乗り込み現場へと向かう。いつもと同様助手席で課題をやりながら。
そのまま走らせていると突如隣にいる昴が「あーっ!」と声を出す。
なによ?と水島はバックミラーに少しだけ映る昴を見た。
「台本…どこやったっけ!?」
「役者が台本を無くすなんて…
信じられないよ昴。
学校に置いてきちゃったの?」
もしその言葉通りだとしたらそうとうマズイ事態だ。
昴も自分の背中に冷や汗が流れるのがわかった。
「まったくもう…」
信号が赤になり車が止まったとき、水島は自分のカバンから黄緑の分厚い本を取り出し昴に渡した。
「…水島さん!ありがとう!!!」
「くれぐれも台本チェックしてる途中に寝落ちして、家に忘れてくるなんてことがないように!わかった?」
すみませんっ、と謝り受け取ったばかりの台本を抱え現場に入っていった。
おはようございますと入ると大勢のスタッフたちが昴に頭を下げる。同じように昴も一人一人に頭を下げ挨拶をしていった。
「おはよう昴ちゃん」
その中一際目立つ格好で昴に挨拶をしたのは女優の三枝かるな。
真っ赤なワンピースと白衣という衣装を身に纏い、ヒールを履いていた。
「わ…かるなさん綺麗…」
思わず漏れた昴の一言に三枝は大笑いして肩を叩く。大女優三枝かるながこんな人柄だとは世間は一切思わないだろう。
「ほら昴、かるなさん忙しいんだから邪魔しちゃだめよ」と母親のようなマネージャーに釘を刺される。
「いいんですよ水島さん、私にとって仕事よりも可愛い昴ちゃんの方が大事なんですから」
それでは衣装替えがありますので、と去っていく三枝に深々と頭を下げる水島。
母親のように、妹のように可愛がってくれる三枝へ感謝の表れだった。