フィルムの中の君



長い長い終業式を終え体育館から教室へ戻る途中、昴は隣のクラスの生徒と目があった。


彼はさらさらな黒髪を風になびかせながら意味あり気に笑顔を向ける。


「なによ」と口の動きで聞くと、
「なんでも」と笑って返事をされる。


彼の姿を見て、女子生徒の大半がキャーキャーと騒ぐ。
(さすがですね、人気俳優さんは)
と、内心毒を吐く昴。


「ねぇねぇ、昴〜」
腕を絡ませ体当たりしてきたのは芽衣。


「宮藤くんってさ、仕事中もあんな感じなの?」


あんな感じ…とは?
何を意味するのかわからないが、下手にイメージダウンさせるような発言は出来ない。


「ん?えーっと…うん…
まぁ本人に聞いてみたら?」


せっかく同じ学校なんだし!と濁す昴にそうだよねぇ!と笑う。
しかし向こうが近付いてきたタイミングが悪かった。


昴、と名前を呼び近付いてくる声。
隣では芽衣がキラキラとした顔をしている。


「ゆ、優、久しぶり、へへへ」


「何でそんなに片言なんだよ」


それはタイミングが悪すぎるからよ!
と怒ることは出来ず惚ける。


「そんなことより何?どうしたの?」


すると耳元に口を近付ける優。
周囲では歓声や悲鳴、うっとりとしたため息が聞こえた。


「空いてる日ある?
また後で連絡するな」


それだけを囁くとすぐに友達の元へ戻り教室へと歩き出した。


(え、なんなの優…)






そうして高校2年の夏休みは
幕を開けようとしていたー。

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