フィルムの中の君
その日の夜、昴がお風呂に入ってるころ
芽衣はリビングにいる水島の元へ来た。
「どうしたの芽衣ちゃん」
すっかり昴の部屋にいると思っていた水島は驚き、ソファの隣を勧める。
「すみません」と言い芽衣はちょこっと腰をかけた。
「昴って…やっぱりお仕事大変なんですか?」
「そうねぇ…」
コーヒーの入ったマグカップをテーブルに置いた。
「ほんの一握りしか一線で活躍出来ないこの世界で、昴は仕事をさせてもらえてる方に入るかな」
昴の忙しさは知っていたが、水島の口から聞くとますます実感が増す。
「そうなんですか」と芽衣。
どうして?と問う水島に一呼吸してから芽衣は言った。
「お仕事もある、学校もある、
今の昴は休めていないように見えて…。
テレビで昴を見れるのは嬉しいけど、
頑張りすぎて倒れちゃうんじゃないかと思ったら、ちょっと心配で…」
芽衣の言葉は水島が思っていることでもあった。
16歳の女の子には忙しすぎるスケジュール。大人でも根を上げるほどだ。
しかし彼女は決してそういう弱音を吐かない。
かつて水島も仕事を抑えようと思ったこともあった。
「でもね、昴が言ったの。
『私はまだ16年しか生きてないから世の中わからないことの方が多いまだまだ子供だよ。それは自分でもわかってる。
でも大人とか子供の前に私は女優なんだ。
櫻井昴は生涯女優として生きる。
今までも、これから先も』 って。
長年やってるベテランの役者でさえ滅多にいないのに、あの子はそう言った。
まだ若いけど彼女は真の女優ー。
そう思って私は仕事する昴を
支えていこうと思ったの」
予想もしなかった水島の話に芽衣は何て返せばいいかわからず、ただ俯いていた。
「けどそうして昴が女優でいられるのはいつでも芽衣ちゃんがいてくれる、っていうことが大きいのよ」
「あたし…ですか?」
そう、と頷く水島の顔はいたって真面目だった。
「芸能人だからって近付いてくる子とは違って、ちゃんと昴の中身を見てくれてる。芽衣ちゃんは芸能人・女優としてではなく、櫻井昴という人間と向き合ってくれた昴にとって大事な大事な人。
だから芽衣ちゃんには何でも気兼ねなく話せるんだろうなぁ、って」
自分でも知らぬ間に流れていた涙に気付くと、裾で拭く芽衣。
「もー芽衣ちゃん、泣かないの!」と水島にティッシュを渡される。
遠くからは昴が芽衣を呼ぶ声がする。
「あれ?芽衣どこ?」
昴出てきちゃったから芽衣ちゃん戻りな!と水島に促され、リビングを出る芽衣。
(芽衣ちゃん、昴をいつも支えてくれて
本当にありがとうー。)