フィルムの中の君




水島と共に控え室に入るヘアメイクと衣装担当のスタッフが昴を待っていた。
ずらりとハンガーにかけられた衣装と鏡の前に大量に並べられた化粧品たち。



「おはようございます!
よろしくお願いします!!」



挨拶は基本と子役時代から教わってきた昴にとって、一人一人にきちんと挨拶することは当然であった。


さぁ座って座って!とヘアメイク担当に促され鏡の前の椅子に腰をかける。



「今井さん、
今日もよろしくお願いします!」



よろしくね〜とヘアメイクの今井は昴の髪の毛をセットし始める。
毎回昴は今井のメイクに食い付き鏡越しに手を追っていた。



「昴、恥ずかしいからあんまりじーっと見ないで」


あっ、ごめんなさい!つい…
と漏らす昴に今井は笑う。



「どう?台本は覚えられた?」
緊張を解すために毎回メイク中に今井は話しかけていた。
その心遣いが嬉しくて昴は楽しそうに会話をする。



「さて、終わりましたよ〜」



鏡に映る自分はまるで自分じゃないかのよう。毎回綺麗にしてくれる今井に感謝を伝え、衣装に着替えた昴はそのまま控え室を出て行った。



「今井さん、
いつもありがとうございます」



そう告げると水島も昴の後を追って控え室を出る。



「仕事だからやってるわけじゃないんですよ」
今井のその言葉は誰に聞かれることも無く、空中へと消えていった。


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