フィルムの中の君
出てきた料理全てを食べ終わると、もういい時間になっていた。
席に訪れた料理長にお礼を言うと店を出る2人。
「ちゃんと巻いてろ」と怒られ昴はストールで口元まで隠す。
「優、今日はありがとう。
とっても楽しかったよ」
ふふふ、と笑う昴に、
「それはよかった」と返す優。
「いつもああいうお店行くの?」
「そんなわけないだろ、
そんな頻繁にあんなとこ行けるか」
…今日は特別だから。と呟く。
「久しぶりの家と仕事場以外の場所で
息抜き出来たか?」
「あ…うん、ありがとう!」
雲一つない夜空には、東京では珍しく多くの星が光っていた。
海沿いのデッキを歩いていると潮の香りが漂ってくる。
「ごめんね優、気遣わせちゃって…」
「違う、そんなんじゃないから」
立ち止まる優。
昴が振り返るとただこっちを見つめていた。
「ただ…俺が一緒にいたかっただけ」
暗くて表情はよく見えなかったが、昴には少し照れているように見えた。
ぼーっとしてると置いて帰るからな、とスタスタ自分だけ歩き出す優。
「……えっ」
(今のはずるいよ、優。
ちょっと期待しちゃうじゃん…)