フィルムの中の君



それから数日後、いつも通り学校を早退して映画の撮影へと向かう昴。
衣装へ着替え今井にメイクをしてもらいスタジオに向かった。


「おはようございます!
よろしくお願いします!!」


「おはよう、よろしくね」


元気良く挨拶する昴に全員がにこやかに返す。


今から撮影されるシーンは浪川、藤森、そして優が一緒で3人とも台本を読んでいる最中だった。
浪川はトランプを捌きながら練習している。


4人でポーカーをしながら騙し合い、最終的には優演じる斎藤次郎が賭けに勝つというシーン。


出演者か集まるや否や、すぐにスタンバイし鈴屋の声でカメラが回り始めた。


「よーい…アクション!!!」





柳田(浪川)がシャッフルしカードを配り終え、全員が手持ちのカードを見る。


『大丈夫ですよ皆さん、カードには細工なんかしてませんから』


『そんなこと仰っても、どこの世界に種明かしから入るマジシャンがいるんです?』


原田(藤森)が笑いながらカードを捨て、柳田を見て優雅に一言。
それを見て雪村(昴)が頷く。


2ターン回りその間もカメラは回り続けていた。


トランプは事前に決められた順にスタッフが並べられており、浪川がシャッフルしたカードと瞬時に交換されていた。


捨てる枚数、取る枚数共に細かく台本に記されており、その通りに演技をしなくてはなない。


そう、ここまでは台本通りだった。


しかし、浪川が一枚多く捨てて取ってしまいカードがずれる。
次に手元に来る予定だったスペードのキングが無く、浪川の次の番だった藤森はすぐ気付いた。


『皆さんまだ役が揃わないようですねぇ。でもそろそろ佳境に入りそうですよ』


原田は口角を薄っすらと上げ、悪どそうな笑みを浮かべた。


(ここでアドリブ…!?)
思いもしなかった藤森のアドリブに昴は冷や汗をかく。
鈴屋がノーカットで撮ると言った以上、撮影を中断するなんてことは許されない。


無言で雪村はカードを引くと、視界の端に映る原田を見た。
そして次にカードを引いた斎藤。
足を組み、人の良さそうな笑みを浮かべ原田を正面から覗く。


一瞬、藤森が頷いたかのように見えた。


『カード、切りましょうか』
突拍子も無い斎藤の一言に柳田と雪村は素で驚いた表情をする。


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